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街中デート
藍善からの突然のお誘いがあったのは、李燕と街に買い物に行ったその日の夜だった。
そろそろ花離宮へ戻ろうかと思っていた頃に帰ってきた藍善は、私を見るとふわりと少し不器用に笑った。
「よかった、まだこちらに居てくれて」
「私に用事だったの?」
思わず聞いてしまうと、藍善は苦笑する。ちょっと、言い方がまずかった。
「あっ、違うよ! 他意はなくて、珍しいなって。藍善から私にって、あまりないから」
「いや、構わない。実は、次の休みに貴殿を誘いたくて声をかけたのだが」
「私を誘う?」
それは思いきり意外だった。どっちかというと、私とはあまり接点を持たなかったようだし。
でも、思わぬお誘いは素直に嬉しい。私は素直に笑った。
「嫌…だろうか?」
「まさか! ちょっと、意外だっただけ。でも、どうして?」
「これの礼がしたくて」
そう言って藍善が出したのは、日中私があげた馬の根付だった。
「これのお礼って、そんな大したことは」
「純粋に、嬉しかったのだ。それに、前はあまり貴殿に合わせてあげられなかった。だから、たまには市中を歩くのがいいかと」
苦笑のまま言われ、私は驚いた。前に一緒に出掛けた時は、とても楽しかったから。
でも、藍善は何か気にしているみたいだ。だから私も素直に、申し出を受けた。
「じゃあ、今日行ったあの店にもう一度行きたいんだけど、いいかな?」
「それは構わないが、何かあったのか?」
青い瞳が僅かに大きくなる。私は少し照れて笑った。
「実は、少し気になるものがあったんだけど買わなかったんだ。でも、やっぱり気になって。もう一度ちゃんと見て決めたくて」
「そういう事か。分かった、俺で良ければ」
「勿論。じゃあ、次のお休みにね」
藍善が頷き、私は楽しみが増えた思いでその日を終えたのだった。
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