119人が本棚に入れています
本棚に追加
/241ページ
藍温酒家
私が藍善を誘ったのは、藍温酒家というお店だった。大通りにあるお店で、結構人気らしい。でも、それも頷ける。
以前白縁に連れてこられた朝市で、緑伸さんが作る肉まんを食べて私は感動した。あんなに美味しい肉まんを食べた事がなかった。
その、緑伸さんが勤めているお店がここ、藍温酒家だった。
私が藍温酒家の前に立つと、何故か藍善は立ち止まってしまう。なんと言うか、無言で拒絶している感じがした。
「藍善?」
「あっ、いや。春華殿、店を変えないか?」
「何かあるの?」
「あぁ、その…」
バツが悪そうに言い淀む藍善だったが、丁度その時お店の扉が内側から開いた。
「あれ? 姉さんじゃないっすか!」
「緑伸くん!」
中から出てきたのは明るい緑色の瞳を輝かせる緑伸くんだった。何か持って出て行くところで、私を見て子供っぽい明るい笑顔を見せてくれる。
「もしかして、食べに来てくれたっすか!」
「あぁ、うん。お店、空いてるかな?」
「ちょっと待ってほしいっす!」
慌てて駆け戻った緑伸くん。その様子に、藍善は慌てて下がろうとする。けれど私はその腕を掴んだ。そうするうちに、店先に一人の男の人が出てきた。
最初のコメントを投稿しよう!