藍温酒家

1/8
119人が本棚に入れています
本棚に追加
/241ページ

藍温酒家

 私が藍善を誘ったのは、藍温酒家(らんおんしゅか)というお店だった。大通りにあるお店で、結構人気らしい。でも、それも頷ける。  以前白縁に連れてこられた朝市で、緑伸(りょくしん)さんが作る肉まんを食べて私は感動した。あんなに美味しい肉まんを食べた事がなかった。  その、緑伸さんが勤めているお店がここ、藍温酒家だった。  私が藍温酒家の前に立つと、何故か藍善は立ち止まってしまう。なんと言うか、無言で拒絶している感じがした。 「藍善?」 「あっ、いや。春華殿、店を変えないか?」 「何かあるの?」 「あぁ、その…」  バツが悪そうに言い淀む藍善だったが、丁度その時お店の扉が内側から開いた。 「あれ? 姉さんじゃないっすか!」 「緑伸くん!」  中から出てきたのは明るい緑色の瞳を輝かせる緑伸くんだった。何か持って出て行くところで、私を見て子供っぽい明るい笑顔を見せてくれる。 「もしかして、食べに来てくれたっすか!」 「あぁ、うん。お店、空いてるかな?」 「ちょっと待ってほしいっす!」  慌てて駆け戻った緑伸くん。その様子に、藍善は慌てて下がろうとする。けれど私はその腕を掴んだ。そうするうちに、店先に一人の男の人が出てきた。     
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!