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「ヨダはもうキャンパスには戻れない。依頼主の願いを叶えられないからね」 「……それはヨダにとって、悪いことなのかい」 「存在意義を否定されたこいつの、今後の生きる意義はなんだい? その答えをぼくはあげることはできないよ」  フーノはどこか冷たい声でそう言い、筆をキャンパスに当てた。 「さあ、無駄話は終わりだ。覚悟はいいかい? シアン・ワイルド」 「……ああ。もうとうにできている」  その言葉を聞いてフーノはニッと口端をあげた。筆を滑らせ、キャンパスの右端にサインを記す。泳ぐように走らされた筆先から、光がこぼれたようにシアンには見えた。そのサインが心臓のように生命の血をキャンパスに走らせる。ドクン、と波打ったように見えたキャンパスは少しの振動とともにカタカタとイーゼルに悲鳴をあげさせた。何かが生まれる。そんな瞬間だ。 「さあ、宿るよ」  フーノが言う。シアンはキャンパスから目を離せられない。  そしてゆっくりと、キャンパスの中のマゼンダが動き始めた。右手をまっすぐにこちらへ上げ、何かを求めるかのように突き出してくる。そしてそれは実際にキャンパスを突き出して、現実側へとはみ出てきた。  神の手を持つ画家の絵は、飛び出てきて動き出す。     
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