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 シアンはキャンパスから飛び出た少女へと手を伸ばす。手の先は彼女の頬に触れようとしてためらい、しばし空を掻く。けれどしばらくの後、何かを決意したかのようにその先を少女の頬に滑らせた。少女はそれを当たり前のように受け入れただ微笑んだ。きっと彼女はこの後に紡がれる目の前の男性からの言葉も受け止めてくれるのだろう。  そうなるように、フーノが想いの絵の具をのせて描かれた作品なのだから。  フーノは男の望みが叶うその瞬間をただ見つめていた。    ・   ・   ・  シアンがマゼンダと呼んだ絵の少女は役目を終えると、キャンパスへ吸い寄せられるようにその身を溶かした。まるでコットンに染みゆく水のよう。そうして少女を形作っていた色彩は渦を巻きつつキャンパスの中央で徐々に小さくなっていく。その円はやがて小さくなり消えて、キャンパスはただのまっさらな生地に戻った。  それをシアンはただ呆然と見つめて、しばらくして息を吐き出した。 「本当に魔法みたいだな……」     
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