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突然つぶやかれた言葉にフーノは首をかしげた。シアンはフーノの足元にいる、愛らしい視線を送ってくるヨダを見つめながら言葉を続けた。
「生まれた理由が何であれ、ヨダは今幸せそうに俺には見えるよ。君はかりそめの魂だと言っていたけれど……ともに過ごすうちに加えられていった色もあるんじゃないかな」
「……何を突然」
言い出すんだい、という言葉の続きはフーノの口からは出なかった。ただその言葉に従うように、足元のヨダを見た。かち合う視線はいつものマヌケなもので。それでいて愛おしい存在。
「一番の友達なんだろう?」
「…………ああ」
フーノはヨダを抱え上げた。ヨダはそれが嬉しかったかのようにベロで彼の頬を舐める。彼の顔を汚していた絵の具がヨダの舌に移り、ヨダの舌は不思議な色に変化した。
そんな様子を見ながらシアンは思うのだ。
絵はかりそめのものである。どうあがいたって本物に敵うことなどはない。頬の感触も現実の方がもっと温かいだろうし、こちらには決して向けられることのない恋い慕う表情のまばゆさも実際とは違うのかもしれない。
それでも──そのかりそめに救われる者もいる。
かりそめを必要とする者はいる。
行き場のない思いを成就させるために。叶えられぬ夢を叶えるために。
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