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 大きな街カフレを歩き疲れて辿り着いた目当てのアトリエ。神の手を持つ画家が住んでいるという家は、小さなレンガ造りの一軒家だった。赤い三角屋根の煙突から煙が出ていたので、人がいることがわかってノックをしたシアン。彼の前に現れたのは、若くまだ少年とも言える男だった。 「君が、神の手を持つ画家かい」  シアンからすれば、今年二十三となる自分よりも五つは年下なのではないかと見える少年だった。黒い髪を無造作に後ろでキュッと一つに結び、大きな青い瞳は勝気な印象を与える。しかし扉を開けて早々に言われたぶしつけなシアンの問いに、彼は大人びて目を細めたのだった。 「そうだよ。あなたがシアンさんだね」 「ああ。手紙はきちんと届いていたんだな」 「うん。返事書かなくてごめんね」  書かない主義なんだ、なんて言って彼はシアンを部屋の奥に招き入れた。シアンはブーツの足元をその中に踏み込ませると中をぐるりと見渡した。予想よりも物が少ないと感じられる部屋だった。 「絵の具臭くもないんだな」  スン、とシアンは鼻をすする。     
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