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なぜそんなことを問われているのだろう、とシアンは訝しむ。しかしこの問いを発するフーノの瞳の青さは深く、シアンを射抜く。この問いに答えぬのなら今日のこちらの依頼は聞かぬ、とでも言いたげな瞳にシアンはキュッと唇を噛んだ。
「……誰かが、ペットにしたいとかか」
珍しい生き物を自慢する輩というものはいる。しかしそれはハズレだったらしい。フーノは口先を尖らせて「ブッブー」と言った。
「正解はね。ある子どもにこいつを退治させて自信をつけさせるためだったのさ」
つまり、とフーノは言葉を続ける。
「こいつは殺されるために生まれたんだ」
「……!」
突然飛び出してきた物騒な言葉に、シアンの体は小さくのけ反る。殺されるために生まれた目の前の生き物。矛盾とも言える生誕の理由を話されているとも知らず、そいつはマヌケな顔でただじっとシアンを見つめた。
フーノは語る。
「ぼくの絵は目的が達成すればキャンパスに戻り、消えてなくなる。でもこいつには目的を達成させたくなくて、結局ぼくは依頼を放棄した。だからこいつはそのままここにいる」
せっかくの大金だったのになぁ、なんてフーノは笑う。
「今まで色々な依頼を受けてきたよ。病気の女の子を慰めるための歌うカナリア。足を怪我した農夫を助けるための雄牛。看取りの最期に寄り添ってほしいと言われた白猫」
しかしすぐにその青い目を鋭くさせて、たじろいでいたシアンを射抜いた。
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