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 シアンは数日後、再びフーノの家を訪れた。  約束された日の時間に訪れれば、そこはむせ返るような油絵の具の香りに満ちていた。部屋の中央に大きなキャンパスがイーゼルに立てかけられているが、扉を開けた時には裏側しか見えずシアンは歩を進める。 「どうだ、できたのか」 「ああ。完成だ。いい出来だよ」  キャンパス向こうでチェアに座るフーノが答える。絵を見ていたのだろう。穏やかにコーヒーをすすっていた。しかしそのシャツやズボンには油絵の具がところどころ引っついている。たったの数日でこれだけの大きなキャンパス絵を仕上げたということは、相当に大変だったに違いないとシアンは申し訳なく思った。 「ありがとう。見てもいいか」 「ああどうぞ」  シアンは足を運びキャンパス前に回った。するとそこにはあの写真そのままに、女性──マゼンダの姿があった。リクエスト通り、写真とは違う白のワンピースを着て微笑んでいた。 「これは……素晴らしい」     
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