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今にも動き出しそうなほどに写実的な絵であった。頬の赤みがかったピンクも、唇に乗せられた紅の色も、肌の下に通る血の温かさも感じられるほどの完成度だ。長い亜麻色の髪の毛は窓から舞い込む風で吹かれて泳ぐのではないかと思うほど、軽やかにキャンパスの中できらめいている。
「これが本当に飛び出し動くのかい?」
「うん。ぼくがキャンパスにサインを入れれば、この絵に魂は宿る」
魂が宿る。その言葉にシアンの胸がドキリと跳ねた。
神の手を持つというこの少年が描いた絵。それは魂を宿し、キャンパスから飛び出て動き、命あるものとしてそこに現れるという。それはまさしく神の領域。踏み込んでいいのかと依頼するまでにシアンは散々に悩んだ。それを見透かしたかのだろう。フーノは言う。
「魂といっても、かりそめの魂さ」
「かりそめ……?」
「飛び出した彼らに本当の命はない。ただ意志を持ったように動き、時に話してくれる。でもそこに心はないんだよ」
そう語るフーノの足元には、あのマヌケな化け物ヨダが丸まって座っていた。ヨダもフーノの作品である。
「彼らは依頼主の希望や夢を叶えるために存在する。それが終わればあとはキャンパスへ戻り、消えてなくなる。うたかたの存在だ」
フーノはテーブルに置いていたパレットを手に持ち、筆を滑らせた。サインを書こうとキャンパス前に立つ。そんなフーノの足元にヨダはよたよたと歩き擦り寄る。ヨダに気づいてフーノは下を見て、そしてシアンを見た。
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