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「そうだね。おい君、意識はしっかりしてるか? 僕たちの顔、見えてるかい?」
「ごご、ご心配には、及びまっせん!」
一見、人を取って食いそうな堀田親子の迫力に気圧されたのか、清士は弾かれたように立席した。その拍子で前髪が揺れ、右目にできた青あざが出現する。膝の形にくっきりと真円を描いたそれを、彼はひび割れた瓶底眼鏡で隠しつつ、凄い勢いで手を左右へ振り始める。
「びび、美少女の顔面キックとか、わっ、我々の業界では、むしろご褒美」
「やっぱり救急車呼ぶか」
「いやいやいやいや!」
次の瞬間、お笑い芸人のような空手チョップが竹琉の額を直撃した。「いてっ」とひるむ竹琉の前で物怖じもせず清士は、上体を左右へ揺らしつつ無傷アピールを行っている。
「こっ、こう見えて拙者、頑丈なのであります。みみ、ミラプリの使徒とも呼べる皆様のお手を煩わせるなど、言語道断」
「あー、まだ動いちゃ危ないよ!」
容姿に加え、口調も立ち居振る舞いも不穏そのものだ。清士の動作一つ一つに「キモい」という形容詞が当てはまるが、あえてそれを口に出して指摘する者はいない。
『なんだ、ピンピンしてるじゃないの』
『唯希のキックがご褒美なんだってさ。じゃあ特別に、もう一発お見舞いしとく?』
元からなのか、頭を打った衝撃のせいなのかと目を見合わせている堀田親子の後方から、さらに別のひそひそ声がする。それは清士の丁度真正面、テント端の横幕前で横並びに正座させられている、ブルー、イエロー、ピンクのドレスを着た、三体の着ぐるみからのものだった。
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