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アルコールキス
本日の予想最高気温三十三度。七月でこの気温ってどうかしてる。
「こんな日はビアガーデンっしょー。行きませんか? 千賀子さん」
「行くいく! 呑まないとやってられないわ」
「よっしゃあ! ノリの良い千賀子さん、好きっス」
「惚れなさい。思う存分惚れなさい。アハハ」
正面の席の大木が出社するなりアフターの予定を入れてきた。入社二年目でまだまだ若く、ノリが完全に学生である。上司に目を付けられている金髪に近い茶髪を暗く染め直すこともなく、のらりくらりと(端から見ればテキトーに)仕事をしている。明るく軽い口調も営業向きといえば営業向きだが、昭和生まれからしたらツッコミどころ満載である。
「他に誰誘います?」
私は壁紙のカタログをうちわ代わりに、視線を斜め上に持ち上げる。すると丁度出社してきた久米さんと目が合った。
久米さんはいつもの仏頂面で私の隣に腰掛ける。
「おはよう」
「おはようございます。久米さんもどうッスか、今日?」
久米さんは目を眇め、私と大木を交互に見た。
「んだよ? また呑みの話か?」
「ご名答!」
「今日ビアガーデン行こうって話してたんスよ」
久米さんはノートパソコンを開きながら「そうだなぁ」と迷う素振りをする。
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