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ひみかの もりびと
二十三時という不可解な時間のピークを乗り切って安心しているところに、店の女子トイレに幽霊が出るのでなんとかしてくれないかと苦情を言われてしまった。
気持ちを平常モードに戻している途中の叱責は、なかなか心にこたえる。
「明日も食べに来るから、今日中に追い出しておいて」
普段は無口なお客ほど、怒らせると無茶な要求をぶつけてくるものらしい。
「申し訳ございませんが、わたしは幽霊が見えないので、すぐには対処できないんです」
わたしは正直に自分の事情を話したが、まったく取り合ってもらえなかった。
「幽霊者検定なんて、中学生でも持ってるのに」
常連さんはそう言って、二割値引いた食事代を支払い、無愛想なまま帰ってしまった。
幽霊対策よりも、値引きのほうが欲しかったのだなと合点がいったが、二度も同じ手法で店の売り上げを下げられたくはない
テレーゼの弥生店に幽霊が出るという噂が広まってしまう可能性だってある。
見えないものに対処するには、見えるひとにお願いするしかない。
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