第1幕 高花と星(こうかとせい)

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資料室は校舎の別棟にある。 教師が怖がるのも無理はないと思うくらい、入り口の木製の扉からして気味が悪い。 扉に一切装飾の類がないのだ。さらに、開けようとすると悲鳴にも近い金切り声を上げてくれる。 加えていえば、扉を開けた瞬間死ぬほどカビ臭い。 カビ臭いというより、生臭い。 理科室にも似通った匂いがする。 「ウワア……」 臭いし、室内だけ妙に底冷えする寒さだ。 電気を点けると、いくつも鎮座する木製の棚が立ち並んだ、意外と広いフロアが広がっていた。 ただ、丸まった地図や資料集たちがそこら中に点在する床は、足の踏み場もない。 高花は口を押さえながら、ローザの方を振り返る。 「ローザちゃん、見てよすっごい汚…… あ?」 ーーーーいない。 びっくりしていると、視界の底にピンク色の頭がうずくまっているのが見えた。 「くさい…あっし、くさいの無理なん…」 「うをををををい!!」 ーーーーローザ退場。 そんな訳で、とうとう独りぼっちである。 「ああ、小テストさえ出来てればなあ~。 星のご飯を食べている時間なのになあ~。」 独りでぶつぶつ言いながら、床に散らばった資料を集めていく。先は長そうだ。 何時になるだろう。 星には、今日はクラブがないから早く帰れると言ってしまったので、帰りが遅いと星が心配するんじゃないか?とふと高花は思った。 「考えても仕方ない!やらなきゃ終わらないしぃ」 そう呟き、グシャグシャに積まれた六法を棚に戻しているときだった。 急にめまいがして、目の前にそびえ立つ棚がグラリと揺らいだのは。 「ーーーーっ!?」 一瞬のことだった。世界の何もかもが天地を失い、高花が書類の散らばった床に尻餅をつくまでの、ほんの短い時間。 高花は幻を見た。 景色が変わった。 あちこち燃え盛る新宿の高層ビル群の中に高花は立っていて、周りは血の海。 高花は哀しげに武器をとり、目の前の敵に刃の切っ先を向ける。 同調する。シンクロしていく。 手に持っている武器の重さに、 変わり果てた街の姿に。 何より、 ーーーー戦いたくない。 どうしてこんな世界になったの? 哀しくて、「たすけてっ!」と叫んだ瞬間、目の前が真っ暗になった。
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