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資料室は校舎の別棟にある。
教師が怖がるのも無理はないと思うくらい、入り口の木製の扉からして気味が悪い。
扉に一切装飾の類がないのだ。さらに、開けようとすると悲鳴にも近い金切り声を上げてくれる。
加えていえば、扉を開けた瞬間死ぬほどカビ臭い。
カビ臭いというより、生臭い。
理科室にも似通った匂いがする。
「ウワア……」
臭いし、室内だけ妙に底冷えする寒さだ。
電気を点けると、いくつも鎮座する木製の棚が立ち並んだ、意外と広いフロアが広がっていた。
ただ、丸まった地図や資料集たちがそこら中に点在する床は、足の踏み場もない。
高花は口を押さえながら、ローザの方を振り返る。
「ローザちゃん、見てよすっごい汚……
あ?」
ーーーーいない。
びっくりしていると、視界の底にピンク色の頭がうずくまっているのが見えた。
「くさい…あっし、くさいの無理なん…」
「うをををををい!!」
ーーーーローザ退場。
そんな訳で、とうとう独りぼっちである。
「ああ、小テストさえ出来てればなあ~。
星のご飯を食べている時間なのになあ~。」
独りでぶつぶつ言いながら、床に散らばった資料を集めていく。先は長そうだ。
何時になるだろう。
星には、今日はクラブがないから早く帰れると言ってしまったので、帰りが遅いと星が心配するんじゃないか?とふと高花は思った。
「考えても仕方ない!やらなきゃ終わらないしぃ」
そう呟き、グシャグシャに積まれた六法を棚に戻しているときだった。
急にめまいがして、目の前にそびえ立つ棚がグラリと揺らいだのは。
「ーーーーっ!?」
一瞬のことだった。世界の何もかもが天地を失い、高花が書類の散らばった床に尻餅をつくまでの、ほんの短い時間。
高花は幻を見た。
景色が変わった。
あちこち燃え盛る新宿の高層ビル群の中に高花は立っていて、周りは血の海。
高花は哀しげに武器をとり、目の前の敵に刃の切っ先を向ける。
同調する。シンクロしていく。
手に持っている武器の重さに、
変わり果てた街の姿に。
何より、
ーーーー戦いたくない。
どうしてこんな世界になったの?
哀しくて、「たすけてっ!」と叫んだ瞬間、目の前が真っ暗になった。
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