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胸を打つ鼓動が早鐘のようで。
高花は目に涙を浮かべながらハッと我に返った。
生臭い匂いに、高花の周りで散らばる書類の山。
相変わらず雑然とした資料室の中心で、高花は尻餅をついたまま動けなくなっていた。
ーーーー哀しくて、心細くて。
「星……」
無意識のうちに星の名前を口にしていた。
涙が一筋、高花の頬を流れ落ちる。
彼に会いたくなって、もう今日は帰ろうと高花は立ち上がった。
すると、その時。
ドサッ
資料室の奥から何か物音がした。
高花はビクリと肩をすくめる。
ここには高花以外いないはずだ。
ーーーー誰か、いる?
息を飲み、高花は物音のした方に足を向けた。
一応、近くにあった、攻撃性の高そうな長箒を抱えてみる。
ドクン…………ドクン…………
心臓の鼓動が全身に波及して、指先まで震えている。
こんなに怖いのに、なぜ足がそちらへ向かうのかも分からないままで、高花は手前から順番に棚の間の通路を検めた。
そして、とうとう一番奥の通路まで達したが人気はなく、代わりに、その通路には一冊のアルバムが落ちていた。
さっきの物音はそれが落ちた音だったのだ。
「変なの、誰もいないのに…」
開いて中身が散乱したアルバムを拾い上げる。黄ばんだ用紙に水のりで貼られた白黒写真はあちこち剥がれていて、写真自体も風化しそうなほどボロボロだ。それもそのはずで、きっとこれは100年近く前の世界大戦のときのものだ。みんな軍服を着て、無表情で映っている。
「うへえ…古そうな写真だなあ…」
ページを適当にパラパラとめくる。
すると、めくっていくページの途中に、見たことがある顔を見つけた。
軍隊の集合写真だろう。
軍服を着た男たちが整列している写真。
その中に、星にそっくりな軍人がいるではないか。
高花は食い入るようにその青年の映った写真をみつめる。
筋肉の付きすぎない、細身の体。
よく通った鼻筋に、薄い唇。
切れ長の瞳が、少し長い前髪の間からこちらを見据えている。
似ている、というレベルではない。
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