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高花は思わずその写真を台紙から剥がし、さらに他のページも見渡す。
そして、もう一人見覚えのある人物を見つけた。
白黒写真の中、黒縁眼鏡を掛けた、若い軍服の男を。
「西沢さん、何を見てるの?」
背筋に冷たいものが走った。
ーーーーこの顔だ。
不思議なことに、高花はこの男性の顔をこのとき始めて見た。
その男性は歴史の教師で、いつも授業のときに見ていたはずなのに、まるで今日初めて会ったような気持ちがした。
白髪の、無精髭を生やした若い男。縦縞の入ったスーツの似合わない、黒縁眼鏡の男。
教壇に立つ彼をたしかに今まで見てきたのに。
「片付け、進んでないようですけど?」
問われて、高花は慌ててアルバムを棚にしまった。
教師は傾いた黒縁眼鏡をクイと持ち上げ、不敵な笑みを浮かべている。
「何で独りなんですか?西沢さんはビリ前でしょ。ビリの生徒は?」
「あの…体調不良で帰りました」
「へえ?じゃあ後は先生がやるから、もう帰った方がいい。近くで通り魔が出たようですし。」
「通り魔、ですか?」
「なんでも、渋谷の松島屋で買い物をしていた若い男性が刺されたとか」
ーーーー買い物をしていた、若い男性が。
そう聞いた高花の表情が張り詰める。
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