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この世に若い男性なんて数多いるのに、星じゃないかという疑念が拭い去れない。
「すみません…帰りますっ!」
「どうぞ。ああ、そういえば」
教師が高花の手にある一枚の写真を指差す。
「その写真もどうぞ?」
「あ…っ」
まだ握りしめていたのだと気づき、恥ずかしそうに高花が写真をポケットにねじ込む。
それからは脇目も振らず、月明かりに照らされただけの渡り廊下を高花はひたすら駆け抜けた。
さらに、階段を何段も飛ばして降り、鞄を抱えて正門から飛び出した。
*
大勢の人の群れが行き交うスクランブル交差点。
歩行者用灯器の青色が点滅するのを見て、高花は駆ける足を加速させた。
「うわ、今のコ速い」
すれ違うOLが振り返る。
その頃には高花は交差点を渡りきり、事件現場の渋谷のデパートに近づいていた。
ここから高花の自宅は目と鼻の先だ。
時間もまだ6時半だし、星が買い物に来ていてもおかしくない。
ビルの角を曲がると、パトカーの回転灯の光がくるくる回りながら、ビルの合間を赤く照らしていた。
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