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薄明るい室内にかつおだしの薫りが滲む。
西沢高花は布団を巻き込みながら体を丸めた。
頬に触れる空気は凍てつくようで、とても起きる気にならない。
まどろみと目覚めを繰り返すこと30分。
いい加減起きなければ、と掛け布団から這い出した。
濃紺のセーラー服に着替え、姿見の前でリボンタイを結ぶ。
その頃にはすでにキッチンの方からリズミカルな包丁の音がし始める。
カーディガンを引っ掛けながら部屋を出た。
腕をさすりながら縁側を歩く。
庭を臨める円窓からふと目に付いた、白い雪帽子を被った椿の花の深紅と深緑が脳裏に残る。
冬の朝は静かだ。
硬い廊下を踏みしめるように歩く。
だんだんと和らいでいく寒さを感じながら、高花はベージュ色の襖に白い指を掛けた。
「おはようございます、高花」
襖を開けると、居間には“彼”がいた。
澄んだ蒼色の和服を着た、高花の“人形”。
「おはよっ、星!」
高花は彼を見るやいなや名前のとおりの、パッと花開く笑顔を咲かせた。
西沢星一朗はプイッと向こうを向いて腰を上げる。
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