第1幕 高花と星(こうかとせい)

1/55
60人が本棚に入れています
本棚に追加
/651ページ

第1幕 高花と星(こうかとせい)

「兄さん…」 そう呼ばれる“彼”は、薄暗い部屋の中で布団に横たわっていた。彼の和服の青色だけがこの部屋の中で色彩を持っているように、室内は殺風景で。 彼の傍らで咽び泣く黒髪の美しい少女がいる。 少女の紅い唇が震えているのは、彼がもうじき寿命を迎えるからだ。 「多々羅(たたら)…」 少女の名を喉だけで発音したのだろう、彼の口の中でその言葉が吐息に変わった。 少女にその声は届かないで、彼女は涙を零している。 少女は彼の手に縋り付き、その燃えるような瞳を彼に向けて言った。 「兄さん…このまま死なせやしない… どんなことしたって必ず助けるから…」
/651ページ

最初のコメントを投稿しよう!