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「夢が叶った事って、ある?」
ノートを見ると案の定、「発達課題」とか「自己実現」とか、そういう単語が並んでいる。そのうえ、俺と神原がファミレスに入り浸ってから4時間が経過しようとしていた。そろそろ、その場だけでだらだら続く、けれど明日になったら何も覚えていない、内容の無い会話をし始める頃間だから、必然と言えば必然だ。
「小さい夢でよければ、あるよ」
「どんなの叶った?」
神原が好奇に満ちた目をこちらに向けてくる。丁度、炭酸が抜けきり氷が溶けて味の薄まった、コーラだった液体を飲み干したので新しいものを取りに行きたかったのだが、そうはいかないらしい。
「中学からずつと好きだったバンドのライブにいくっていう夢」
初めていったのは高2の夏。明るすぎる照明に照らされて1曲目の演奏が始まったとき、確かに
「夢が叶った」感じがした。
「へー。どんな気分だった?」
「嬉しかったなー。また絶対行こうって思ったし。現に今も行ってる」
「それって、夢を何度も叶えてるってことだよね?」
次は尊敬の眼差しを向けられているが、今のこのやり取りは、文字を書くことに飽きた神原のただの暇つぶしにすぎない。話半分で聞いて置かねば、無駄な体力を使うことになるだろう。
「いや、2回目以降は夢というか目的になったかな」
ライブの情報をいち早く得る。それに向けて資金を貯め、スケジュールを空ける。開催地が遠ければ宿を確保するし、近ければ布教活動をしてみたりする。
「そっか……夢の叶え方が分かっちゃったら、それはもう夢じゃなくなるんだね」
神原が悲しそうな顔をしながらメロンソーダを飲み干す。そうだ、次は俺もメロンソーダにしよう。関係ないが、身体に悪そうな色をしているのに摂取してしまうのはなぜだろう。
「神原は、夢が叶ったことある?」
「うーん……オレはさ、リスキーな事避けるから」
明日、A41枚のみ持込み可の試験に、俺のノートを写して挑もうとする時点で相当リスキーだが、黙っておくことにした。
「将来はヒーローになる!的なの言う時代から、オレは夢を持った事がないよ」
先生が笑顔で尋ねる「将来の夢はなんですか?」に、黄色い帽子をかぶった神原が「安定した収入」と答える姿が容易に想像できた。
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