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「でもさ、世間は夢を持つことに肯定的じゃん?」
そう言われると、夢を語るのを咎められた記憶はない。「夢はでっかく」とか「夢に向かって前進」とか、ポジティブでクリエイティブなイメージがある。けれども、夢を持っている人は素敵だが、夢を追い続けている人が漏れなく全て素敵というわけではない。
「……夢がないのはさ、自分を主観的にも客観的にも見れるからじゃないかな。神原は堅実なんだよ」
神原が「フォローありがとう」と俺の手を強く握る。
「多分オレはさ、夢が叶う気持ちよさを知らないから、夢が持てないんだと思うんだよ」
俺は先程から飲み物を取りに行きたいのだが、神原が持論をさらに展開する。
「だってさ、みんな夢を持ちたがるじゃん?叶わなくても叶っても、何かしら快楽が得られるから、飽きもせず夢を持つんだよきっと」
確かに、夢を持った人間の原動力というのは、個人差はあるにせよ目を見張るものがある。「快楽を得るため」と仮定するのも、あながち間違いではないのかもしれない。
「オレ、夢を叶えた時の快楽を知りたい」
なんか変な事を言い出した神原を無視して、飲み物を取りに行こうか迷うが、迷っているうちに捕えられた。
「この場で叶う、インスタントな夢ってない?」
神原がいたって真面目に相談してくるものだから「なんだよ、インスタントな夢って」というツッコミをぐっとこらえ、飲み込んだ。でもこれは、チャンスかもしれない。
「……例えばさ、ドリンクバーを誰とも鉢合わずにとってこれるとかどう?」
「なんかちっちゃい。でも、練習にはいいかも」
「じゃあちょっと俺から行ってくる」
俺は足早にドリンクバーへ向かい、途中、小さな女の子に追い抜かれ、女の子が必死に手を伸ばしてリンゴジュースを入れた後に、メロンソーダをグラスに注ぎ、神原のもとへ帰った。
「だめだったわ」
「次オレね」
神原は誰とも接触せず、いとも簡単にコーラを注いで帰ってきた。
「なんか違うわ。夢ってさ、オレの中で成功率8%って感じなんだよ。これは、ドリームじゃなくてミッションだ」
「だろーな」
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