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本屋を通り抜け、私たちは坂を登り始めた。
遠くからは壁のように見えていた坂は、実際に登ってもやはり壁のような急勾配だった。前を行く軽トラックですらウンウンと唸るようにして勢い任せに登っている。
父が耐えきれず上着を脱いだ。季節外れの長袖では、熱中症で倒れてしまいそうだ。
「……お前、知ってたのか? お母さんの店」
唐突にそう聞かれ、私は顔を上げた。
「何それ」
「この上にあるんだよ。昔のことだから、もう無いかもしれんがな。行きつけのご飯屋さんがあったそうだ。俺は行ったことがないが、お婆ちゃんとよく気晴らしに行ってたみたいだった」
「へえ、知らなかった。でもなんでまた、こんな坂を登ってまで」
理由は父も知らないようだ。どんなにおいしいお店があったとしても、気晴らしの散歩と言っても、流石にこれは車椅子を押してまで登るような坂じゃない。
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