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やたらと時間を掛け、息も絶え絶えで坂を登り切ると、その先にはまた平坦なアスファルトが伸びていた。
左右は草っ原の更地で、遠くには住宅街が見える。何も無い空間に一軒、ぽつりと古ぼけた食堂があった。木造の平屋で、年季の入った庇とのぼり旗にはそれぞれ『お食事処』『うどん』と書かれている。
先程までここにあったはずの逃げ水は、遠く、アスファルトの向こうに去っていた。
私はその店よりも、道の先に逃げていった逃げ水の方を見つめていた。
「……もしかして、野崎さんですか?」
声を掛けられたのは、その時だった。
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