逃げ水の向こうに

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  「……今日、やっぱり泊まっていこうかなあ」  私も本屋の影に逃げ込みながら、また一口ペットボトルの水を飲んだ。  父は不思議そうに、しかしどこか嬉しそうに私の顔を見つめる。 「なんだ、今日中に東京に帰るって言ってたじゃないか」 「明日土曜で休みだし、よく考えたら早く帰ったってやることないし。久々の実家、堪能するよ。晩御飯何にする? スーパー寄っていこう」  ……きっと私は、いつまでも後悔し続ける。  その記憶が、日常の中で埋もれてしまっても。ふとした瞬間に。そして、またこの夏が来るたびに思い出す。  どうしたらよかったのか。母は何を思い、この結果を選んだのか。  答えの無い答えを探し求めて、私は彷徨い続ける。  だけれど、それで構わない。  来年も、あの店に行こうと思う。母と祖母の見た景色を感じて、懺悔し、後悔し続けよう。  そして私は、逃げ水の向こうの世界に想いを馳せることしかできないのだ。  
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