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ナージュは奥の部屋から聞こえる規則正しい金属音に思わず微笑んだ。
静かに移動し奥にある作業部屋に入ると、窓際にある大きな作業台の前に、白髪の男性の細いシルエットが逆光に浮かんでいた。
ナージュは作業の様子を、埃っぽいソファから眺めるのが大好きだった。
人によればその音がうるさく感じるのかもしれないが、このカン、カン、という金属がたてる音は、ナージュの心を穏やかにさせる。
しばらくソファから見つめていたナージュは、だんだんとまどろみに誘われ、うつらうつらと船をこぎ始めた。
心地よい音と、金属の独特な匂い、埃っぽい空気がナージュを包み込む。
ほんのひと時、ナージュは穏やかな波に漂っていた。
「ナージュ」
柔らかでいてどこか厳しさのある声で呼ばれ、ナージュははっと覚醒した。
いけない、どうやら少し眠ってしまっていたらしい。
「おじいちゃん」
声の主を見上げれば、祖父のガリライが真っ赤な林檎を手に笑っていた。
「美味しそうな林檎だ。マウロさんだろう? いつも悪いなあ」
「ちゃんとお礼言っておいたよ!」
「そうかそうか。ナージュは偉いな。よし、林檎をむいてやろう」
そう言って作業部屋の隣にある簡易的な台所へ向かう祖父の背中を見ていると、お店の鐘がカラン、と再び響いて来客者を告げてくる。ガリライはちょうど包丁を持って皮むきを始めたところだったので、ナージュはぴょん、とソファから飛び降りた。
「私見てくるね」
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