1260人が本棚に入れています
本棚に追加
その時ようやく、ナージュは黒い鎧の前に声もなく、気配もなく佇むもう一人の男性の存在に気づく。
まだ年の若そうな青年は、鎧を前にして固まってしまったかのようにぴくりとも動かない。
騎士服だったので、もしかすると将軍の従者なのかもしれなかった。
「あの、きっと二人のお話長いと思うので、どこか座って待ちますか?」
ナージュの提案に対して、男の人は「……いや」と曖昧に返事をしながらも、視線は鎧を見つめたままだ。
ナージュもまた、青年と同じように鎧に目を向ける。
ナージュから見れば、将軍もこの騎士も、首を曲げるほど見上げないといけないくらい背が高かった。
だが、立派な体躯の将軍の後に見ると、目の前の男の人はかなり華奢に感じた。
騎士服を着てはいるが、帯剣していないので、叙任はまだなのかもしれない。
「おじいちゃんの作る鎧、凄いですよね」
ナージュの言葉に、男の人はかすかに頷いたように見える。ナージュはまるで自分が作ったかのように胸を張った。
「私、いつかおじいちゃんの鎧よりすごいのを作るのが夢なんです」
青年は、ナージュを少し見て、そしてまた鎧に目を戻す。
無表情で感情の見えない騎士は、どうやらこの鎧に魂を奪われてしまったみたいだ。
こういう場面をナージュはよく目の当たりにした。それ位、ガリライの作る鎧には力があるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!