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工房の奥に、大きめの鎧立てが存在感たっぷりに置いてある。工房の主が、依頼者の採寸のために購入したばかりのその鎧立ては特注品で、まだ新品だった。
鎧立ての脇にある長椅子に、一人の大柄な男が両脚を放り出して深く腰掛けていた。
茶褐色の癖毛が肩まで無造作に伸ばされ、顔に髪がひと房落ちている。
その毛先が引き結ばれた厚めの唇に入り込んでいる様子から、男に余裕がないことが伺えた。
唇の奥の歯が、ぎりっと軋む音がする。
男は眉をしかめ、うぅっと艶めいた呻き声を上げた。
削いだような頬に引きつった傷の跡がある。そこだけ色素が薄くなってしまっていたが、それさえも男の鋭さのある風貌に拍車をかけていた。小さな子供が泣いてしまいそうなくらい強面な男だったが、今苦悶に歪むその表情は、本人でさえ納得がいかないほど色めいている。
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