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そんな風に育ってきたナージュだったが、幼いころから一番落ち着く場所がある。そこは唯一ナージュが心を偽わらず過ごせる場所だった。
お昼過ぎまでの学舎を終え鞄を小脇に抱えて軽やかに駆けていると、馴染みの青果店の店主がナージュに声をかけてくる。
「なんだい、ナージュ! またガリライさんのとこかい?」
「うん!」
「ははっ! 学舎帰りはいつも生き生きしてるねえ。ほらっ! ガリライさんに旬の林檎持って行ってやりな!」
「おばさん! ありがと!」
学舎からの帰り道、ナージュは毎日そこへ通うのが日課だった。
露店や様々な店で賑わう城下町の大通りから一本中に入った路地裏を縫うように駆けていく。
石造りの建物の間にある細い路地は、大通りの喧騒が嘘みたいに静けさに包まれていた。ナージュの足は迷うことなくその場所へ向かう。
路地の突き当たりにぽつんとある古めかしい石の建物がナージュの目的地だった。
入り口は少し高い位置にあり、階段を上らないといけない。不ぞろいの階段は十段ある。
いち、に、さん、し……と数えながら兎のごとく駆け上がった先にこれまた古めかしい木製の扉があった。
『甲冑師・ガリライの店』
銅版にそれだけ彫られた看板は、なんの装飾もない。だがそこは、知る人ぞ知る店だった。
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