靴音

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靴音

 駅前からずっと、誰かが後ろを歩いている。  残業で、どうにか終電に飛び乗った。そんな時刻だから駅にすら人はほとんどいなかった。ましてや駅の外の通りなんて、通りかかる人はいない。  いつもの帰宅時間にすらあまり人がいないような道なのに、こんな時間に同じ方向に向かう人がいるなんて。  でも、相手にしてみたらこの時間がいつも通りの帰宅時間で、今夜はたまたま私がいるというだけかもしれない。  コツコツ、コツコツ。足音から、後ろの人は多分ハイヒールを履いているらしい。だったら女の人だから、そこまで怯える必要もないだろう。  足音の種類でなんとなく安堵して、音と一定の距離を保ったまま家へ向かう。その途中に気がついた。  今歩いている辺りはこの数日工事中で、常に泥が道路を埋め尽くしているような状態だ。それでも晴れた日は泥を避けて歩けるけれど、一昨日から降り始めた雨で泥が辺り一帯流れた道は、まるで川の浅瀬のようだった。  雨は昼過ぎにやんだけれど、道は水溜りだらけで、どんなに気をつけても泥水を少なからず踏んでしまう。  この状態で、まったく水音を立てることも泥に遮られる様子もなく、背後の足音はコツコツと、乾いたアスファルトを進むような音を上げ続けている。  後ろの人は、水にも泥にも強い素晴らしいハイヒールを履いている…ってことはさすがにないよね。  ここは足場が悪いから、とりあえず、工事区間を抜けたら思いっきりダッシュして逃げよう。 靴音…完
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