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出会ったばかりの見知らぬ男に警戒心がないわけではなかったが――哀しそうな表情が気がかりで、思わず手を握っていた。
「教えてくれ。お前のことを」
「……私の故郷は燃えて、灰となった。妹も家族も、すべて。この髪と瞳の色を受け継ぐのは――私ひとり」
この世に、ただひとりの色。
孤独な――紅の色。
強い力で手を握り返され、びくりと肩が跳ねた。
私は、一国の姫だ。
望めばなんでも手に入った。
ただひとつ――孤独感が、満たされる瞬間。
それだけが、手に入らなかった。
いつもいつも、何のために……誰のために生きているのかと人知れず問いかけていた。
答えなど、誰も持ってはいなかった。
教えてもくれなかった。
だが、これまでの苦痛は今日この瞬間のためにあったのだと確信した。
「わたくしの名は、シェーナ。……クレシェーナだ」
色違いの瞳が、私を見据える。
あまりに稀有で不穏な色すら覗かせるそれは、ただ哀しく揺れていた。
「美しい名だ」と。震える声で言いながら。
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