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「お嬢さん?」
男の瞳は、見たこともないほど美しい色をしていた。
金と黒のオッドアイ。
一見作りもののような冷たさもあるそれは、私の瞳をまっすぐに見つめてやんわりと綻んだ。
「……気味が悪いでしょう。ふだんは隠しているのですが、あなたの姿が見えて慌ててしまいまして」
「わたくしの?」
「あなたのように美しいお嬢さんがひとりで歩くのはあまりよろしくない状況かと。いつ怪しい男が現れるか」
わたしもそのひとりか――と笑い、男は隠すようにそっと目を逸らす。
細められた色違いの瞳を、気味が悪いなどとは思えなかった。
むしろ、慈しみさえ感じる視線を初めて受け取った気がする。
下卑た視線に、機嫌を取る視線。そして、怯えを含んだそれならば数え切れないほど向けられてきた。
「なぜ、笑う」
「さあ」
言いながら男は踵を返し去っていこうとする。
問いかけに答えてないうえ、何の断りもなく背を向けるとはなんと無礼なことか。
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