一夜目

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 胸の奥がかっと熱くなり、離れていく男の手を衝動的に掴んだ。 「何か?」 「わ、わた、わたくしに何か用があったのではないのか」 「いえ。遠目で見るよりずっとお元気そうなので心配ないかと」 「……しん、ぱい」  向けられたことのない言葉を反芻した瞬間、腹がグゴゴゴゴ……と盛大な鳴き声をあげた。 「おや、お腹の虫は心配したほうが良さそうだ」 「う、ううう、うる、うるさい」  腹を押さえても、鳴き声はやまない。  怒りではない頬の熱さに、俯きながら顔を隠そうとした手を男の大きなそれが掴んだ。  赤くなっているであろう頬をするりと撫で、男は笑う。 「お兄さんが飯を食わせてあげましょう」と楽しそうに言いながら手をひき、宿屋へと舞い戻っていく。           
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