一夜目

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「私の名前はコウ。東の国――大倭の出身でございます」 「……海で囲まれた島国の?」 「良くご存じで」 「珍しい名だが、国に伝わるものか」 「ええ。大倭の言葉です」  掌を上に向けるよう促され、思わず従う。  人を従わせてばかりだった――この私が。  掴まれた手首も、掌も。彼の触れるところすべてが熱い。  身を引こうとする私に気付いているのかいないのか、平然とした顔でコウは文字らしきものを掌に書いていく。 「紅(くれない)と書いて、コウです」 「くれない……? どういう意味だ」 「赤です。血のように鮮やかで濃い、赤です」  その名のとおり、男の髪は血のように赤い色をしていた。  ウェールズではまず見かけることのないその色に、むくむくと興味が湧いてくる。  大倭は各国の調査団がこぞって探求を進める未開の地だ。  そこに住まう者たちがどういう生活をしているのか、どんな風貌をしているかなど多くが謎に包まれている。
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