アクアリウム

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 たぶん、奎緒の抱えた一年ぶん、それよりもっともっと長い時間を、和彦はひとり、その事実を誰とも分かち合うことも赦されず生きてきたのだろう。  ──あの日、胸に抱えられていた水槽が手を離れてもずっと。  そこにはいつも、見えない何かが影を落とし続けていた。 「──……好きだ」  涙に声を詰まらせる奎緒の身体を抱き寄せ、髪に顔をうずめるようにして和彦がつぶやく。それに応えようと、奎緒は顔を覆っていた両腕を和彦の背中に回すときゅっと力を込めた。 「……俺も、好き。和彦さんが──好き」  たとえこの先、誰ひとり自分たちのことを認めてくれなくても。それが、決して赦されない想いだとしても。  和彦が、ここにいてくれればいい。  やがて、しゃくり上げる奎緒の濡れた頬を和彦の長い指先がそっと拭う。それを合図にするかのように、ふたたびどちらからともなく唇を合わせていた。  切り付けるようなこの胸の痛みも、息が詰まるほどの罪悪感も、和彦と一緒にいられるのならば構わない。唯一の肉親であった父の死よりも、和彦との真実を悲しんでいた自分は、あの瞬間、すでに彼を選んでしまっていたのだから。 「……何だか、海の底にいるみたいだな」  ふと、繰り返される口付けの合間に、和彦が吐息混じりにささやく。そんな彼に小さく微笑んでみせてから、奎緒はその言葉を紡いだ唇に自らの唇を寄せた。
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