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エピローグ
そしてついに、7000系引退の日を迎えた。
夕方のなんば駅は、別れを惜しむ人たちで、黒山の人だかりが出来ていた。私たち3人は、ものかげでお話をしている。
「いよいよ、お別れですね」
私は南野さんに声をかけると、
「うん。いろいろとありがとう」
目に少し涙を浮かべて、私にお礼を言ってくれた。
「ななみさん、本当にお別れなんだね」
一週間、あちこちに出かけた日野前くんは、少し日焼けしていて、やっぱり涙を浮かべている。
「うん……、もう、成仏する覚悟は出来たから」
答える南野さんも寂しげだ。
「岡崎さん、お友達からって話だけど、彼をよろしくね」
彼女に言われ、私は、用意していた答えを返した。
「改めて、ですが、日野前くんの告白、お受けしたいと思います」
こう答えると2人はものすごく驚いた顔を見せた。
「日野前くん、イメージと違ったけど、本当の優しさを持ってると思います。南野さんの代わりにはなれませんが、私を彼女にして下さい」
「岡崎さん……」
日野前くんが驚いている。
「あの、本当に、いいんですか?」
「もちろん」
この姿を見て、南野さんは涙を流し始めた。
『まもなく回送電車が発車します。ご乗車にはなれませんからご注意下さい 』
アナウンスが流れ、7000系が最後の発車をする時が来た。
「卓くん、さようなら。岡崎さん、彼のことをよろしくお願いします」
「はい」
「さようなら、ななみさん」
電車がホームを離れて行くとともに、ななみさんの姿が薄くなり、光を放って消えていった。
「南野さん、成仏したみたいだね」
「うん、あの、岡崎さん?」
「名前で呼んで欲しいな。これからお付き合いするんだから」
「あ、はい、まゆか、さん。ほんとうに、僕が彼氏で、いいんですか?」
少し自信なさげな彼に、私は、
「なんばパークスで人を助けたとこ、見てたよ。白い杖をついた人を見た時は気にしてないのに、転んだ時にすぐ助けに行ったでしょ。あれを見て、ね」
こう答えると、彼は恥ずかしげに返事をした。
「あ、見てたんですね……。これから、よろしく、おねがいします」
私たちはこれからだけど、ななみさんの想いを胸に、卓くんを信じて進んでいこうと決めた。
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