1.空港急行は急を告げ

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1.空港急行は急を告げ

『21時2分発、空港急行、関西空港行にご乗車のお客様は……』  生徒会の仕事をしていて、気づいたらこんな時間になっていた。急いでなんば駅に向かって電車に乗り込む。この時間は通勤しているおじさんやおばさんたちが多い。  帰り道で彼に会うことはめったに無い。おそらく時間が合わないのだろう。  電車に近づくと、偶然にも朝も乗った「さよなら7000系」のマークが付いた車両だ。初老の男性がスマホで写真を撮っている。よほど珍しいのだろうか。朝は沿線に撮影隊も居たし、少し気になってきた。  私は電車に入ってロングシートに腰掛けた。すると他の席もあっという間に埋まった。  ところが、さきほど写真を撮っていた初老の男性が目の前に現れた。よく見るとヘルプマークを付けている。  このマークは外見ではわからない不自由があることを示す。迷わず私は「どうぞ」と席を譲ると、彼は「ありがとう」と言って椅子に腰掛けてくれた。  そうだ、これを機にこの車両のことを聞いてみることにしよう。 「あの、ちょっとお伺いしたいんですけど、この電車、写真撮ってる人が多い気がするんですが、珍しいものなんですか?」 「ああ、この電車はね、私が新入社員だった40年前からずっと走ってたんだ。だから無くなるのは寂しくてね」  古いなとは思ってたけど、そこまでとは思わなかった。 「そんなに長い間、走ってたなんて知りませんでした。そこまでとは思わなくて」 「そうかそうか。大事に使われて来たからかも知れないな」  長い間大事に使われて来た車両だからこそ、みんな、別れを惜しんでいるのかな。 「だからみんな写真を撮ったりしてるんですね」 「そうかもなぁ。こういう長い間大事にされたものには、付喪神(つくもがみ)が宿ると、よく言ったもんだ」  つくもがみ、か。そんなのがいるのかな、とぼんやりと聞き流していた。 『まもなく発車します。閉まるドアにご注意ください』  駅員のアナウンスと同時に駆け込んで来た人がいた。なんと毎朝見る彼だ! いいことをするといいことがかえってくることもある……、  あれ? 朝も見たお姉さんが一緒にいる。  電車が動き出す前に、おじさんに軽く会釈をして、少し移動した。  改めて食いいるように彼女のことを見る。歳は20歳そこそこぐらいか。お互いに笑顔を見せながら談笑して、とても仲が良さそう。私は彼女でもなんでもない。けど気になる。
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