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3.気弱なスパイに思わぬ司令
もやもやした気持ちのまま、二人の後をスパイのようにつけていく。なんでこんなことしか出来ないんだろうか、つくづく自分が情けない。
動物園で歓声をあげ、ふれあい園でサルに餌をあげたりと、本当に楽しんでいる二人がうらやましい。
あっと言う間にお昼。みさきキッチンと言うレストランで食事でもするのだろうか。私も離れた席について二人を見る。
タイミング同じく、突然スマホが震えたので、画面に目をやると「南海本線、南海高野線、大雨のため遅延」とプッシュ通知が入った。
まだ昼間だし、大丈夫だろうと思いながら、大阪方面の空を見るとどんよりとしている。あの女、仲良いところを見せつけるためだけに呼んだのだろうか?
あれ? 彼女が席を立ったと思うとこちらに近づいてきた。いったいどういうこと?
「ごめんね。急になんばに行かなきゃならなくなったの。彼と一緒にデートしてくれない?」
「は? どういうことですか?」
年上とはいえ、楽しそうにしているところを見せつけられた挙げ句にこれではさすがにキレる。
「仕事に行かないといけないの。彼一人で待たせると寂しいでしょ。詳しいことはあとで話すから、お願い!」
頼み込んで来た。
「私じゃなきゃだめなんですか? 嫌味なんですか?」
「そんなつもりはないの、お願いします!」
なにも私に、と思う。
「まあ、そこまで言うならいいですよ。その代わり、戻って来たら卓くんは私の彼氏になってるかも知れませんけど」
嫌味たっぷりに返事をした。さすがに引き下がるだろう。
「それならうれしいです。じゃあ、よろしく!」
「あ、ちょ、ちょっと!」
言うだけ言うと彼女は駅の方角に走っていった。
「(どうしろって言うのよ……)」
一人残され、さっきまで見ていたテーブルには、彼が一人でコーヒーを飲んでいる。
「(うれしいですってどういうこと? まさっぱり意味わかんないんだけど、まさか別れたいと思ってるとか?)」
いったいどういうこと……?
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