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4.ファーストコンタクト
一応警戒というより、緊張で身体が動かずに5分ほど様子を見ていたが、彼女が戻ってくる気配は無い。
「(黙っていてもどうにもならないし、行くしか無いか)」
意を決して彼のもとに向かう。しかし、近づくとともにドキドキが止まらなくなって来た。
あと10メートル、5メートル、3メートル……、彼と私の目があった。
「はじめ、まして。おかざき、まゆかと、もうします」
ひとことひとこと、絞り出すようにやっとあいさつした。
「はじめ、まして。ひのまえ、たくです。おかざきさんって、言うんですね。電車でおみうけしました」
彼もなんだかたどたどしい。そして、き、気づかれてた!? 確かに何度か見られていた気はするけど、意識されてたなんて思わなかった。かあーっと顔が赤くなる。
「あ、見られて、ましたか、えと、その……」
言葉が詰まって出てこない。
「すみ、ません。ぼくのほうを見ていたのが気になって……」
互いにしどろもどろ。せっかく憧れの彼といるのに。
私はひとまず深呼吸して考える。南野さんは仕事だって言ってたけど、いったいなにがあったんだろう。
「あ、気になって。ところで、さっき南野さんって人からデートしてほしいって言われたんだけど、何かあったのですか?」
それとなく聞けるほど器用でも無い私は、どストレートに聞いてしまった。
「ダイヤが乱れて、急に高野線(こうやせん)の方に行かなきゃいけなくなったんだって」
「高野線? 南野さんは南海電車でお仕事してるの?」
「うん、そんなところ、かな」
一呼吸置いて彼が続ける。
「ななみさん、本当にデートしてっていったの?」
「そう、よ」
「……う」
イメージとぜんぜん違うたどたどしい口調。最後の返事は小声過ぎて何を言ったか聞こえなかった。表情は複雑そう。とりあえずそのまま受けておくけど、日野前くん、何かを隠しているのかしら?
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