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5.勇気を出して
こうして、お互いぎこちないままのデートがはじまった。
「とりあえず、どこか、行きましょうか」
私がそういうと、彼は小さなメモ帳を取り出して、
「みさき公園名物のイルカショーが始まるらしいから、行きませんか?」
誘ってくれたので私はうなづき、一緒に見に行くことにした。会場はけっこうなにぎわいを見せている。
お姉さんのかけ声とともに、イルカたちがいっせいに飛び跳ねていくと、そのたびに会場から歓声が上がった。
彼と私も一緒に歓声をあげると、彼に笑顔が見えた。
「すごいねー」
「うん」
よくトレーニングされたイルカの動きは素晴らしく、しばしの間見入ってしまう。
そして隣には、今まで脳内だけの存在だった彼がいる。息遣い、表情を間近で感じると、ドキドキが高まるのがわかった。
彼も楽しそうなんだけど、顔のどこかに憂いを帯びている感じがした。
――それ(私が彼女になる)ならうれしいです
南野さんの言葉が脳内再生された。やっぱり心に引っかかる。
その後、ジェットコースターに乗ったりして、いっぱしのデートコースを歩く。何故か彼は小さなメモ帳を常に確認しながら歩いている。気がつけば時計の針は4時を過ぎている。
「岡崎さん、あの、少し、海を見ませんか?」
「え、あ、いいけど」
彼に誘われて、さっきイルカショーを見た場所にやってきた。最終回を見た人たちとすれ違い、人はまばら。時計は既に午後4時を回っている。
ベンチに座ると、彼は突然深呼吸をはじめた。これから何が起きるというのだろう……!?
「岡崎さん、あの」
「どうしたの? 日野前くん」
「実は、ずっと、あなたのこと見てました」
「あ? え?」
国語の授業で突然先生に当てられた生徒のようなたどたどしい口調で、彼から思わぬ言葉を聞いた。
「あなたのことが、好きです」
「え、えええええ!?」
突然の彼からの告白に、私は思わず驚きの声をあげてしまった……
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