過去編 第四章 「明けぬ夜の寝物語」

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 悪酔いして睡るときに見るのは、たいてい悪夢だ。  思い出したくない幼少期の追憶。  ――わけがわからずもがいた自分と。  それを押さえつけて無理矢理に体を開かせた王の、あの征服感に満ちた表情。  ゆびの蠢きとは比べもつかないような質量感が押し入って来て、幼い私は金切り声を上げた。体を二つに引き裂かれるような熱い震動が始まり、私は寝台の上で鉄槌で打たれたように、硬直した。  やめて、と叫ぶ己の声すらも遠くに聞こえ、激しく体を使う王の息遣いだけが、あのとき聴覚の全てを支配していた。  いつしか初めての痛みも沸点を過ぎ、飛ばしかけの意識の片隅で、これが快楽なのだと自身に言い聞かせたあの夜…。  これはきもちいいんだ、きもちいい、と、思わなければ。  痛みを脳内で変換することで、壊れかける自我を辛うじて保った。  楽になるならばと、幼さの残る肉体で必死に媚態を演じてみせた。与えられるものに溺れるふりをした。  その行為から逃れることができないのなら、せめてもっと優しく犯してくれれば、と。  けれどとうとう最後まで妥協はなく、初めからとうに音を上げていた体は幾度となくその夜、欲望の受け皿にされた。本当に良いと思えたのは『あれ』を受け取る最後の一瞬だけ。父が精とともに、私の内に神司を注ぎ込んで来る、あの一瞬だけだ。  ああこの瞬間の悦びを得るためにあの苦痛は存在したのかと、私は瞬時に理解したけれど、やはり――それ以外は最悪だった。
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