過去編 第二章 「幻獣の野にて」

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(嘘だ、嘘だ、嘘だ)  ヴァニオンは沼池までがむしゃらに走った。  吐き気がとまらない。  どうして。どうしてあんなことができるのか。 『頼む、出て行ってくれ!』  切羽詰まったナシェルの叫び声が、今でも耳元でぐわんぐわんと鳴っている。  木の根につまずき、みっともなく転んだ。  目の前に広がっていた葦原(あしはら)を、ようやく抜けた剣で、がむしゃらに切り裂いた。 「畜生!」  どうして王はあんなことをしていたのか。  どうしてナシェルは助けを求めず、出て行けと叫んだのか。  どうして自分は、目の前の現実から逃げ出してしまったのか。 「畜生! 畜生! ……ちくしょう……!」  剣を投げ捨て、身を丸めて、叫んだ。非道な王にも、救出を命じてくれなかったナシェルにも、王に刃を向けることができなかった自分の弱さにも、何もかもに腹がたった。  自分が泣いていることに、やっと気づいた。  しばらく呻いていると、後ろからナシェルが追いついてきて、ヴァニオンの背後に立った。 「……ヴァニオン、済まない。済まなかった」 「なんで! 何でお前が謝るんだよ!? 何で!?」  ヴァニオンは涙を見られるのも構わず顔を上げた。お前は被害者じゃないのか。そう云いかけて、ナシェルの生気のない表情に、ふとフラッシュバックするものがあった。 (初めてじゃない、のか)
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