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(嘘だ、嘘だ、嘘だ)
ヴァニオンは沼池までがむしゃらに走った。
吐き気がとまらない。
どうして。どうしてあんなことができるのか。
『頼む、出て行ってくれ!』
切羽詰まったナシェルの叫び声が、今でも耳元でぐわんぐわんと鳴っている。
木の根につまずき、みっともなく転んだ。
目の前に広がっていた葦原を、ようやく抜けた剣で、がむしゃらに切り裂いた。
「畜生!」
どうして王はあんなことをしていたのか。
どうしてナシェルは助けを求めず、出て行けと叫んだのか。
どうして自分は、目の前の現実から逃げ出してしまったのか。
「畜生! 畜生! ……ちくしょう……!」
剣を投げ捨て、身を丸めて、叫んだ。非道な王にも、救出を命じてくれなかったナシェルにも、王に刃を向けることができなかった自分の弱さにも、何もかもに腹がたった。
自分が泣いていることに、やっと気づいた。
しばらく呻いていると、後ろからナシェルが追いついてきて、ヴァニオンの背後に立った。
「……ヴァニオン、済まない。済まなかった」
「なんで! 何でお前が謝るんだよ!? 何で!?」
ヴァニオンは涙を見られるのも構わず顔を上げた。お前は被害者じゃないのか。そう云いかけて、ナシェルの生気のない表情に、ふとフラッシュバックするものがあった。
(初めてじゃない、のか)
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