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初体験のとき、落ち着き払っていたナシェル。
したことがある? 誰と?……その疑問を飲み込んだ自分。
相手は、他ならぬ王だったのだ。
「……話せなかったんだ。ずっと。話せるはずないだろう」
「なあ、ナシェル、やめよう。こんなこと絶対おかしい。なあ、俺と一緒にどっか逃げよう!」
ヴァニオンは撥ねるように立ち上がり、ナシェルの両肩を掴んだ。考えもなく咄嗟に口をついて出た言葉に対し、ナシェルは痛そうに顔を顰めただけで、何も応えない。
「だって、変だろ!!」
「……」
いつも聡明に耀いているはずの群青色の瞳は、今は生気を微塵も感じさせなかった。
「ヴァニオン、済まなかった。お前をもてあそぶつもりはなかった。
もちろんお前を信頼してるし、……愛してもいる。でも分かってくれ。私のせいで、お前を死なせるわけにはいかない。私を愛することは、お前の破滅につながる。
……何も云わずに、身を引いてくれ」
「なんでだよ!?」
ヴァニオンは愕然と天を仰いだ。ナシェルは……この期に及んでも父王の支配下にあることを望んでいるのか?
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