過去編 第三章 「蝶の往方」

3/61
1058人が本棚に入れています
本棚に追加
/152ページ
 結合部の圧迫感はもう、とうの昔に臨界を越えて、今は痺れのように感じられる。  ぐちゃぐちゃと響き渡る不規則な水音。父は幾度ナシェルの体内に吐いても吐き足らぬようで、雄蕊(おしべ)を彼の中に挿入したまま延々と彼を犯し続けている。  時に激しく、時にゆるゆると、王子を翻弄するために突き上げの深さと速度を絶妙に調節しながら。 「はぁ、は、は……、ン」  激しく貫くときと優しく穿つときでは、受け入れるナシェルも声色が変わる。その微妙な声質の変化を王は愉しんでいる。ナシェルの悲痛な喘ぎを耳に入れる都度、王の怒張もまたナシェルの内部で膨らみを増す。王はねっとりとナシェルの耳元に囁く。 「もっと声を出して啼いてごらん。可愛い小鳥……」  長時間の伽に疲れ果てたナシェルは束の間、足をだらしなく開ききったまま、王の膝の上で気を失い……、びくっと目覚めてまだ、自分の秘部のなかに王がいることを識って、愕然とする。  はじめのうちは快感と感じていた圧迫感も、気を失っている間さえ手加減してはくれなかったのかと思うと、もう受け入れるのも限界だった。 「ち……上、も……、いや………っぁ、もう、赦し……」  ナシェルは父王の肩に頬を埋め、もう勘弁してと懇願する。しかし王は離そうとしてくれないどころか、ナシェルが意識を取り戻したことを知ると、 「嫌などと、異なことを。気持ちが良すぎて思わず寝入ってしまったのであろう?」 と、失神したことを暗に咎め、手枷で繋いだナシェルの両手首を、自分の首に回すように命じる。  ナシェルは啜り泣きながらも、腹に力を入れて少しのびあがり、両手で作った輪のなかにおそるおそる王の頭を通す。そうすると体はいちだんと密着し、双りの貌が近づく。王の首にぶら下がるナシェルは否が応でも全身を預けるしかない。彼は吊られた獲鹿のように腰をしならせ王に縋る。  手枷の鎖は軋んだ音を立てて、王の背中で律動に合わせ揺れはじめる。  カシャン、カシャン……。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!