過去編 第四章 「明けぬ夜の寝物語」

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 ひどい精神状態にある時、必ず見る悪夢。  魂の深い所に刻まれた傷がそれを思い出させるのだろう。  思えばあの時分から私は、父という強大な悪に呪縛され続けてきたのだ。  膨大な神司(ちから)を受け入れさせられ、その神司によって中毒患者のように精神を馭され、一時は善悪の区別もそっちのけで父との享楽に乱れ尽くした。  神として、司を欲するのは自然の摂理である。よって誰も私を責めることはできまい。  それに父に反抗してまで理性や倫理を優先させようとするには、あのころの私はまだ幼なすぎた。そして更なる力を体内に受け取る方法は、神同士による交合しかないのだと、思い込んでいたから。――実際、父に教わったのはその方法ただ一つである。  私は父の司を――もっと直截的に云うならば父のモノを、あの快楽の瞬間を(麻薬に手を出した者さながらに)四六時中欲しがるようになり、父はそのたびに寝所に私を招き、時にはこちらが失神するほどたくさん与えたり、満足に与えなかったりして私を完膚無きまでに制御した。  それが、私の少年期の記憶の全てである。  悪夢は次々と甦る。  親友の目の前で私を犯し、勝ち誇るようにその様を彼に見せつけたこともあった。  芽生え始めた私の自立心を真っ向から否定し、反省を促すふりをして再服従を誓わせたことも。  それでいて時おり、天を降ろされた己の孤独を滔滔と私に説いて聞かせる。  そなたにそんな思いはさせたくない、と云って私を、茨の腕で抱き竦める。
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