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はなやまの前で、戸口のランチメニューを確認して店に入る。
今日の日替わりは麻婆豆腐。
ちょっと辛めで汗が出てくる。
食べ終わってお茶を飲み干し、おかみさんに声をかえるとニコニコ笑って首を振られた。
「この間のお礼に払うからって、常連の子に言われてるのよ」
「…この間の?」
茶封筒とグレーのスーツを思い出した。
慌てて財布から千円札を出す。
「別に、これくらい払います!」
「なあに、もっといい店奢れって言っとく?」
「…ご馳走になります」
しぶしぶ千円札を財布に戻した。
そういうつもりじゃなかったんだけど。
日替わり定食六百円。
…こんなことなら、一番高いヒレカツ定食頼めば良かった。
麻婆豆腐で口の中がヒリヒリする。
うーん、何だか行き辛くなっちゃった。
でも、美味しくて安くて近いし。
…どんな顔だっけ、グレーのスーツのひと。
次の日、はなやま、日替わり定食はアジフライ。
意気揚々と引き戸を開けると、奥の席に、グレーのスーツ。
「いらっしゃい!」
ふっくら頬のおかみさんが進める、奥から二つ目の席。
ヒレカツ定食頼んじゃおうかな、と、ちょっと図々しいことを思いながら、レバニラ炒め定食を頼んでいるその人の隣に座った。
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