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「……なあ」
錬金術都市の観光名所のひとつ、展望階から街を一望できる時計台へ続く、長い坂道の途中。──リンクスは、ふと足を止めた。
「この先に何か……そうだな、共同墓地か何かがあったりするかい?」
「……『声』が、聞こえるのか?」
アゾットの問いに、リンクスは小さく頷いた。
「そうか……共同墓地はほぼ反対方向だな。時計台は比較的新しい建物だから、他の何か……歴史のあるものなら、時計台を越えて逆方向に坂を下った区画にある大図書館だろうな。魔術書に錬金術書、歴史書、文学作品まで幅広い分野のものが揃えられているから、古いものから最近のものまで、多くのものがあるだろう。少し遠いが、予定を変えて行ってみるか?」
「そうだね……っていうか、そのことなんだけど」
どうした?と首を傾げるアゾット。──リンクスは、眉間に皺を寄せて。
「『声』を探して錬金術都市をまわってるときに気付いたんだ。街全体の『声』の量もそうだけど、一つ一つの『声』がやたらと小さいんだよ。……こいつは積もった歴史の長さだけじゃ説明できないと思わないかい?」
「成程……新しい『声』と古い『声』は区別がつくものなのか?」
「そうだね……強いて言えば、古い『声』ほどかすれて聞こえる傾向がある。同じくらい新しそうな、はっきり聞こえるような声でも、魔術都市よりも小さい声が圧倒的に多いんだよ」
「そうか……なら、遠くからでも聞こえる『声』のある場所には行ってみる価値があるな。君の言うように声の大きさと歴史が比例しないのであれば、大図書館ではないどこかかもしれないが……現地に行けば、何かわかることがあるかもしれない」
「ああ。……錬金術都市で新しく手掛りが手に入るとは思ってなかったけど、嬉しい誤算ってやつになるといいね」
──リンクスはそう言って、先刻よりも短く感じられる坂の先を見据え、小さく笑みを浮かべたのだった。
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