死が二人を分かつまで

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時はアスティル歴108年。 東の魔術都市アラベスと西の科学都市キラセスを結ぶ交通の要所である錬金術都市ルリゼスの市場は、今日も東西からの商人と錬金術師たちで賑わっていた。 日光を遮る分厚い革の天幕の下で売られているのは、魔力を高めるとされる薬草だ。魔力を集中させるための触媒とされる素材も形も様々な杖は、柔らかなベルベットの上に並べられていた。紺碧の海を思わせる色の塗料は魔方陣を描くのに最適とされており、品質によっては小さな瓶が金貨で取引されるほどだ。液状の銀は錬金術の素材として貴重な品だがそれ自体には高い毒性があり、クリスタルの瓶に詰められ厳重に封がされている。高度な技術で精製された混じりけのない水には、錬金術の素材として高値がつけられていた。 まるで魔術から科学への歴史を辿るグラデーションのように並んだその品々は、王都メリデスに勝るとも劣らない品揃えで道行く人々の目を楽しませていた。 しかしどんな大都市でも、……いや、大都市であればあるほど、後ろ暗い者が曰く付きの品々を扱う店があるものだ。裏路地に張られた黒いテントに並ぶのは、或いは盗品、或いは危険な薬品。……或いは、黒魔術や死霊術に関する書物。それはまさに今、『彼女』が必要としている情報だった。 「……死霊術の資料を、あるだけ頂こう」 マントとフード、ストールで目元以外の殆どを覆った如何にも怪しい出で立ちの『彼女』。……尤も、店主の格好も似たようなものではあったが。 「……金貨で5」 提示されたのは、小さな家なら買えてしまうほどの大金だった。しかし『彼女』は眉ひとつ動かさず懐から革袋を取り出すと、無造作に黄金の貨幣(コイン)を差し出した。 「……確かに」 金貨が本物であることを確認すると、闇商人は傍らに積み上げてあった書物の山を『彼女』のほうに押しやった。
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