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「……科学都市への出入りはかなり厳しく制限されているが……錬金術都市に戻れば、伝手を探せるかもしれないな。だが、君はどうするんだ?」
「もちろん、アタシも一緒に行くさ。アンタ一人で行ったって仕方ないだろう?」
悪戯っぽく笑うリンクス。
「それは……そうだが……」
「アタシもずっとここで暮らしてきたけど、外の世界を見てみたいって思わなかったわけじゃないんだ。……アンタが来てから、余計にそう思うようになってね。ま、半分はアタシの希望だから旅費は自分で出すさ」
「……君がそう言ってくれるのなら、それもいいかもしれないな。科学の知識があれば新たに選択肢が増えるかもしれないし、そうでなくとも使える知識は多いにこしたことはないだろう」
「じゃあ、決まりだね。善は急げだ、冬が来る前に旅支度を整えて出発しよう」
リンクスの瞳を輝かせているのは、未知に対する好奇心。……すなわち、知識欲。それは、魔術師にとっても錬金術師にとっても、科学者にとっても必要不可欠な資質だった。
「……私は、大事なものをいくつも忘れていたようだな」
「大事なもの、かい?……ま、ひとつずつ思い出していけばいいんじゃないか?ついでに新しいモノも集められればなおいいけど、ね」
そうだな、と小さく笑うアゾット。
「新しいモノを拾っても、古いモノを捨てなきゃいけないなんてことはない。……アンタもいいかげん、それがわかってきた頃だろ?」
「ああ。最近……というほどでもないが、新しく欲しいものもできたところだよ」
「へえ?ま、いいことじゃないか。アンタにはまだまだ、長い人生があるんだ、楽しまなきゃ損ってものさ。……旦那さんだって、それを望んでるよ」
「……君が言うと、説得力が違うな」
アゾットの言葉に、そうだろう?とリンクスが笑う。
「自分の耳で聞いてみるといい。……旦那さんの想いってやつを、ね」
「そうだな。……それまで、宜しく頼むよ」
もちろんさ、と請け合って。
リンクスは、冷めきったハーブティーを飲み干した。
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