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「うわあ、埃まみれだね……」
「……魔術都市へ発つときに一通り掃除はしておいたんだが、一年以上も空き家の状態にしていればこんなものだろうな……」
積もった埃の層がはっきりと見える床や机、棚を見遣って溜息を吐く二人。
「アンタのちっこいのはアタシの家をまだマシな状態にしてくれてると信じたいけどね。……まあ、突っ立ってたってどうしようもない。観念して掃除にかかろうじゃないか」
「そうだな……。まあ、ルスのほうは問題ないだろう。あれだけの魔力石を置いてきたんだからな」
人造人間は普通、水や食事を必要としない。その代わり、定期的に動力となる魔力を補充する必要がある。『ルス』と名付けられたアゾットの『ちっこいの』もその例に漏れず、普段は製作者であるアゾットが直接魔力の補充を行っていた。しかしルスは今回、リンクスの家で留守番をすることになったため、動力源として魔力を蓄える性質がある魔力石を大量に与えられていたのだった。
「ま、遅くともアレが尽きる前には帰りたいとこだね」
「軽く一年は保つだろうが……それ以上かかりそうなら一旦戻ったほうがいいだろうな」
人造人間は魔力が尽きても死ぬわけではないが、出迎えが動かなくなった幼子の似姿というのは、あまりいい気分のするものではないだろう。
「そうだね、例の科学者が何かの役に立つ知識を持ってるとは限らないわけだし……で、科学都市向けの商品とやらはどれくらいかかりそうなんだい?」
「そうだな、一月はかからないだろう。ちょうど私達を加えてくれる隊商が科学都市へ行って戻ってくるくらいだ、それを逃せばまた一月先になってしまうからな……是が非でも間に合わせたいところだ」
「なるほどね。……だったらなおさら、さっさと掃除を済ませないとだね」
「ああ、そうだな。……掃除道具はそこのキャビネットだ、私は研究室から手をつけるか……階段を下りて右の扉だ、何か分からないことがあれば呼んでくれ」
はいよ、と階段を下りていくアゾットに手を振って。
「さて、どこから始めたもんかな」
──リンクスは掃除道具を手に、やれやれと天井を仰いだのだった。
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