死が二人を分かつまで

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『彼女』、アゾットは『稀代の』と称される程の錬金術師だった。夫のケルスは優秀な魔術師で、互いに切磋琢磨しながら仲睦まじく暮らしていた。 ……ほんの、十数日前までは。 最愛の夫の死。アゾットはそれを受け入れることが出来なかった。……なまじ、それを越える術が手の届く場所に在ると思えたがゆえに。 彼女は夫の遺髪から人造人間(ホムンクルス)を造った。死者、生者を問わず人間の一部を用いたホムンクルスの製法は旧くから知られていたし、法で禁じられているというわけでもなかった。……悪趣味だ、生命への冒涜だと後ろ指をさされる類いのものではあったが。 しかしその業に触れて造ったホムンクルスも、所詮は只の肉の器でしかない。製作者の命令にただ従うだけの、意思無き人形。幼子の姿をした『それ』は確かにケルスの面影を宿してはいたが、そこにケルスの魂は存在しなかった。 死者の魂を呼び戻す方法は、まさに『禁呪』であった。……彼女が研究を始めた死霊術がそれである。とはいえ、死霊術にも死者を蘇らせる方法がある訳では無い。本来それは彷徨える霊を使役するための術でしかないからだ。 だが彼女は諦められなかった。認めることが出来なかった。 死は、絶対である、ということを。 錬金術の究極の目標、賢者の石を以てすれば、不老不死が得られると云われている。ならば、錬金術と死霊術を掛け併せれば、死者の蘇生も可能なのではないか。……彼女はそう考えた。
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