14人が本棚に入れています
本棚に追加
かいまく
霧が立ち込めるヨーロッパのある街。深い霧を断ち切るように革靴を大きく音を絶たせて歩く大人たち。それは、子どもを守るための威嚇の音。
だから私は、逃げ遅れちゃったのね。
「こんばんわ。おじさんはね、殺人鬼なんだよ」
ちょっと未来からやってきたおじさんは、そう笑う。
黒い薔薇みたいな夜、一人で歩いていた私をおじさんは両手で掴むと上へ掲げた。
私の手首を持って、自分の目線まで持って行ったの。
穏やかで紳士そうなおじさんなのに、私の目をみるとにんまりと笑った。
口元の金歯が夜の淡い光に輝いていて、ちょっとだけ綺麗だったわ。
「うんうん。君の瞳は綺麗だね。宝石のお嬢さん」
おじさんは私の正体に気づいていたらしい。私を揺さぶるとケタケタわらって、お人形を引きずるように私をずるずる持って帰っていった。
連れていかれたのは、この街で一番大きなお屋敷。
幽霊屋敷かと思っていたけれど、その屋敷の外からかかった南京錠を、何個も何個も壊しながら私は、屋敷の屋根にかかる月を眺めていた。
ああ、落ちてきそうな大きなお月様。私の瞳より美しいわね、と。
最初のコメントを投稿しよう!